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2017.08.30

医療死亡事故のうち、11件の死因がエコノミークラス症候群だったことが分かりました。

医療事故調査制度に基づいて報告された医療死亡事故のうち、11件の死因がエコノミークラス症候群だったことが分かりました。

https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20170830-00000005-ann-soci

日本医療安全調査機構によりますと、今年3月までの1年半に報告された医療死亡事故330件のうち、11件の死因がいわゆるエコノミークラス症候群でした。エコノミークラス症候群は足などの静脈でできた血の塊が肺動脈に詰まる病気で、死亡する確率が高いとされています。機構は、手術後に体を動かせない患者などでは発症するリスクが高いため、早期に発見して対応することなどが重要とする6つの再発防止策を公表しました。患者側にも、予防のため、足用の弾性ストッキングを使ったり、動悸や息切れした時には症状が軽くても速やかに受診するよう呼び掛けています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【用語解説】
肺血栓塞栓症:PTE
(pulmonary thromboembolism)
下肢および骨盤などの深部に生じた静脈血栓が、肺動脈を閉塞し、
肺循環障害が生じる病態。急性肺血栓塞栓症は急激に肺循環障害
が生じた病態をいう。
深部静脈血栓症:DVT
(deep vein thrombosis)
深筋膜より深部を走行する静脈を深部静脈と呼び、深部静脈に血
栓が生じる病態。
静脈血栓塞栓症:VTE
(venous  thromboembolism)

 

急性肺血栓塞栓症とその塞栓源となる深部静脈血栓症は、1 つの疾患が異なる形で現れたものであり、両疾患の治療法は基本的には同じである。最近では両疾患を併せて静脈血栓塞栓症と総称する。

急性肺血栓塞栓症とは、下肢および骨盤などの深部静脈に生じた血栓が肺動脈を閉塞し、急性の肺循環障害を生じさせる病態を指す。本症は深部静脈血栓症の二次

的合併症であるという認識が肝要であり、肺血栓塞栓症および深部静脈血栓塞栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(以下「ガイドライン」とする)が示されている。

急性肺血栓塞栓症は、特異的な早期症状がなく突然発症し、死に至る経過をたどる確率も高い疾患の1つである。一般的には、2000 年のシドニーオリンピックを観戦した後の長時間のフライト後に、若年女性が肺血栓塞栓症を発症してエコノミークラス症候群として知られるようになり、わが国では国外遠征したサッカー選手の発症でも有名になった。さらに2004 年新潟中越地震、2011 年東日本大震災、2016 年熊本地震の際、車中泊など狭い場所で避難生活を送る被災者に本症が発症することが報告され、エコノミークラス症候群という名前が定着している。

これまでわが国においては発生頻度が低い疾患と考えられていたが、生活習慣の欧米化や高齢者の増加、治療方法の高度化、本症に対する認識の向上などに伴い、以前と比較して発生数が増加したとされる。しかし、肺血栓塞栓症の正確な発生率についての疫学的調査はほとんど行われていないため、全体数の把握は難しいという

現状がある。Nakamura らによれば、日本における過去5 回のアンケート調査の結果において肺血栓塞栓症と診断された患者の数は、1996 年から2011 年で4.6 倍に増加し、2011 年の報告では100 万人あたり126 人と報告されている。

2004 年にわが国初のガイドラインが策定され、また時期を同じくして診療報酬に「肺血栓塞栓症予防管理料」が新設された。Kuroiwa らの日本麻酔科学会周術期肺血栓塞栓症調査によると、周術期においては、少なくとも手術1 万件あたり3.1 人に肺血栓塞栓症が発生し、致死的肺血栓塞栓症が0.6 人、死亡率は17.9%と高いことが報告されている。肺血栓塞栓症の発生率は2002 ~ 2003 年に増加傾向がみられたが、2004 年のガイドラインの策定、「肺血栓塞栓症予防管理料」の新設以後、減少に転じている。同様に周術期の死亡率も、2005 年までは上昇したが2008 年以後はやや低下傾向になっている。

また肺血栓塞栓症による全体の死亡者数は、厚生労働省人口動態統計によると、1988 年には591 人であったのが、1998 年には1,655 人と、10 年間で2.8 倍に増加した。その後2005 年には1,900 人と増加傾向が続いたが、以後、年によって変動はあるものの増加はみられない。疾患の特性上、診断が難しいことから、人口動態統計に反映されていない肺血栓塞栓症の発生はある、と推察される。

ガイドラインの策定と「肺血栓塞栓症予防管理料」の保険収載という施策により、病院での肺血栓塞栓症に対する疾患の認識と予防への取り組みは、全国的に広がり、一定の予防効果は得られていると考えられる。しかしながら、いまだ医療事故調査・支援センターへの死亡事例の報告は続いており、さらなる対策の徹底が求められると考える。__

平成27 年10 月1 日から平成29 年3 月31 日までの1 年6 か月の間に報告された

院内調査結果報告書330 事例のうち、医療機関が死因を急性肺血栓塞栓症とした事例は11 例であった。

 

【予防】

≪患者参加による予防≫

医療従事者と患者はリスクを共有する。患者が主体的に予防法を実施できるように、また急性肺血栓塞栓症、深部静脈血栓症を疑う症状が出現したときには医療従事者へ伝えるように、指導する。

 入院生活は行動を制限されるなど活動量が減少することが多く、急性肺血栓塞栓症の発症リスクとなる。その予防の実施においては患者に十分説明を行い、理解と協力を得る。

理学的予防法の重要性と薬物的予防法

静脈血栓塞栓症の予防法には理学的予防法と薬物的予防法があるが、基本は理学的予防法である。理学的予防法には早期離床および積極的な運動、弾性ストッキングの着用、間欠的空気圧迫法などがある。

特に早期離床および積極的な運動が有用であり、出血リスクがあり抗凝固療法ができない患者にも安全な予防法である。長期に臥床が必要な場合には、ベッド上で足関節を動かすだけでも、下肢の静脈血流を促進するという点から予防効果が高いとされている。また、足関節の底背屈運動を行うことは合併症が少なく、多くの患者が実施可能で、安価な予防法であり、患者が自ら積極的に実施できるよう、患者の理解と協力を得るようにする。可能であれば、リスクの程度にかかわらず、

全ての患者に早期離床および積極的な運動を推奨する。ただし、患者の病態によっては早期離床や積極的な運動が実施できない場合もあるため、担当医師の判断・実施の許可が必要となる。

整形外科領域の股関節手術事例では、足関節の底背屈運動が実施されていたが、間欠的空気圧迫法は実施されていなかった。弾性ストッキングの着用については骨折部の痛みなどの理由から実施できなかった例があった。股関節手術事例においては、痛みを伴うため、理学的予防法を行うことが難しい場合があり、可能であれば早期に手術を行うこともベッド上安静の期間を短くすることになり、静脈血栓塞栓症の予防に役立つ 。

脳神経外科領域の事例では、患者の見当識障害や注意散漫、麻痺などにより2 例で足関節の底背屈運動は実施することができなかったが、1 例では実施されていた。弾性ストッキングの着用は1 例で、間欠的空気圧迫法は全例で実施されていたが、すべての安静期間中ではなく周術期のみに行われていた。早期離床や薬物的予防の実施が困難な場合には、周術期だけでなく、すべての安静期間中において、自動運動、弾性ストッキングの着用、間欠的空気圧迫法などの理学的予防法の徹底が、実施可能な予防法となる。対象事例における薬物的予防法については、専門診療科と相談した後、抗凝固療法が1 例で施行されていた。薬物的予防法に使用される抗凝固薬には、ヘパリン、フォンダパリヌクス、エノキサパリン、エドキサバン、ワルファリンなどがある。抗凝固薬の使用にあたっては出血のリスクを十分に評価し、そのリスクが高い場合には循環器内科などの専門診療科に相談する。出血リスクが抗凝固薬のメリットを上回る場合はその使用を控えるという選択肢もある。__

 

患者参加による予防

予防法を実施する際には、急性肺血栓塞栓症の発症リスクと予防法について、患者に十分説明し、理解と協力を得る必要がある。対象事例では急性肺血栓塞栓症の発症リスクについての説明は5 例で行われ、予防法が実施されていた。

理学的予防法の重要性から、医学的に問題がなければ積極的に足関節の底背屈運動を勧め、患者も自ら実施できるように工夫する。弾性ストッキングの着用や、間欠的空気圧迫法の実施は、患者自身が急性肺血栓塞栓症のリスクを意識する契機ともなる。ただし、患者の病態によっては早期離床や積極的な運動が実施できない場合もあるため、担当医師の判断・実施の許可が必要となる。

下記のようなイラストなどを、ベッドサイドに掲示することは、患者、医療従事者への予防の意識づけにつながる。

 

②静脈血栓塞栓症予防のための、医療機器の改良

   着脱しやすく不快感や皮膚障害が少ない弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法用の簡便・軽量な器具の開発を期待する。

 

③ 医師・看護師に対する急性肺血栓塞栓症についての教育

急性肺血栓塞栓症の予防、診断、治療においては、あらゆる診療科の医師、看護師などの医療関係者が重要な役割を果たしており、これらの医療従事者が基本的知識を得られるような研修の機会をつくることが望まれる。各学会に対し、急性肺血栓塞栓症の予防、診断、治療法に関する教育の機会を提供することを期待する。

さらに、肺血栓塞栓症の専門学会に対しては、各医療施設の専門担当者が他科などからの相談に対応できるよう、急性肺血栓塞栓症の予防から緊急時の診断、治療に関して、基本的知識を確認したり最新の知識を習得したりできる機会を提供することを期待する。